物理よりな微分幾何① ベクトル束の定義
ベクトル束の勉強をしていて、分かってきたとこも多くなったので、こちらにまとめていこう!
というモチベーションでやっていきます。あと、できるだけ、物理側面についても触れようと思います。むしろ、物理向けにかきたいので、ちょくちょく、数学書の記法とは異なる記法になっているかもしれないです。
では、まずは定義から
底空間と全射が明らかなときはのことをベクトル束ともいいます。ベクトル束がイメージするものは多様体の各点にベクトル空間がのっているようなものです。物理では、ベクトル場を考えるときに使います。
はベクトル空間の座標(基底)の取り方を意味しています。は同型写像であるので、の自然な基底に対し、は独立な個のベクトルの組で、の基底となります。
また、は局所自明化とも呼ばれ、の局所的な座標表示を与えます。つまり、であるので、はともかけます。ここで、で、はの基底をとしたときの成分になります。この局所性は大切で、大域的な、つまり全体の基底が存在するとは限りません。
上のランク1のベクトル束を見てみましょう。
これはメビウスの帯と円筒の2つあります。メビウスの帯はベクトルを一周させると反転してしまうので、大域的な基底は存在しません。対して、円筒は大域的な基底が存在します。また、円筒の捻じれの無いベクトル束のように、底空間とベクトル空間の直積でかけるような束を直積束とも言います。
物理的には上に周期境界条件または、反周期境界条件をいれた系とみることが出来ます。これには、実際にスピンが関わってくるのですが、できればこの解説もそのうちします。
ベクトル場を見るために切断を導入しましょう。
切断のイメージとしては、下のようなものを考えると良いです。
上の図の通り、切断とは、底空間からファイバーへの写像で、を局所座標表示するととかけます。そして、このが物理で言うベクトル場となります。ベクトル場とはベクトル束の切断と言ってもいいでしょう。また、切断は切断同士の和も、切断のスカラー倍もまた、切断になるのではベクトル空間になります。
先ほど、大域的な基底は存在するとは限らないといいましたが、局所的な基底は必ず存在します。実際、をと定義すればこれが基底となります。は座標表示するととかけることから分かると思います。これを用いるとはと局所的にかけます。このため、はを基底とした、係数ベクトル空間とみれます。アインシュタインの縮約を用いて総和記号を省略していることに注意してください。さらに、今後はこのように、幾何学的な量、つまり、座標表示をしない量にオーバーラインをつけ、それを座標表示したものをオーバーラインを外して表します。
また、もベクトル空間になるので、の基底は存在しますが、この基底が全てのファイバー上で独立とは限らないという意味で、大域的な基底は存在しないといっています。
最初の実ベクトル束の定義の「実」をそのまま「複素」に読み替えれば、自然に複素ベクトル束を定義できます。波動関数は複素ベクトル束の切断と考えることもできます。
重要なベクトル束を2つ紹介しましょう。
の局所座標系をととる。また、において、ベクトル空間の基底をとする。このとき、はとかける。これを用いて、の座標表示をとする。はベクトル空間であり、はベクトル束となる。これを接ベクトル束という。
また、余接ベクトル束は、基底をとするベクトル空間を張り合わせたベクトル束である。
のアスタリスク、そして、名前の「co-」はの双対ベクトル束であることを意味しています。つまり、とは双対ベクトル空間になっていて、内積が
と与えられています。相対性理論を学んだことがある人は、添え字のつけ方にピンときたかもしれませんが、まさにの切断が反変ベクトル場での切断が共変ベクトル場になります。そう思うと、内積が自然に思えるのではないでしょうか。
が反変ベクトル場であることを確かめるには、座標変換に対するの変換性を調べる必要があります。そこで、ベクトル束の変換関数を定義します。
定義からについて、コサイクル条件が成り立つことが分かります。 を使って、変換関数の振る舞いを見ていきましょう。
として、変換関数をとします。に対し
ここで、チェーンルールから基底が
と変換されるので、見比べるとが成り立っていることが分かります。そして、まさにこれは、反変ベクトルの変換性を表していることが分かります。また、の変換関数はヤコビアンとなることが分かります。つまり、数学的に、多様体のチャートが座標の取り方に対応していて、チャートを乗り換えることが座標変換になる、ということが分かります。同じことが、についても出来て、は
という、共変的な変換を受けることが示せます。共変ベクトル、反変ベクトルとくれば、テンソルを作りたくなります。ということで、ベクトル束からベクトル束を作る操作を紹介します。(テンソルも線形性が成り立つという意味ではベクトルです)
ベクトル空間が与えられたとき、直和、テンソル積、双対、外積、対称積などが定義できます。また、ならば、商も定義できます。ここでは各操作について詳しく述べることはしません。
対応して、底空間が同じベクトル束について、各ファイバーごとに上の操作をすることによって、直和、テンソル積、双対、外積、対称積が定義できます。
特に、接ベクトル束を回、余接ベクトル束を回テンソルした、テンソル束
後々で使うので、と表記を定めておきます。については、とします。
最後に、たくさん出てくる添え字を略記する方法を定めておきたいと思います。を、局所的な基底を使って、と展開します。ここで
今回はここまでにして、次回からは共変微分と接続についての話になります。