CとAの数物 Note

数学と物理のはざまに棲息。

物理よりな微分幾何① ベクトル束の定義

 ベクトル束の勉強をしていて、分かってきたとこも多くなったので、こちらにまとめていこう!

 というモチベーションでやっていきます。あと、できるだけ、物理側面についても触れようと思います。むしろ、物理向けにかきたいので、ちょくちょく、数学書の記法とは異なる記法になっているかもしれないです。

 では、まずは定義から

定義 ベクトル束(vector bundle)
 多様体M上のランク(rank)rの実ベクトル束\pi:E\to Mとは以下を満たすものである。

  1. E多様体の構造を持ち、\pi:E\to M微分可能な全射
  2. 各点x\in Mに対しファイバー(Fiber)E_x:=\pi^{-1}(x)r次元の実ベクトル空間。
  3. 各点x\in Mに対し、開近傍Uと、微分同相写像

\displaystyle \varphi_U:\pi^{-1}(U)\to U\times \mathbb{R}^r
が存在し
\displaystyle \varphi_U(x):E _ x \to \{ x \}\times\mathbb{R}^r \cong\mathbb{R}^r
はベクトル空間としての同型写像になる。

 底空間M全射\piが明らかなときはEのことをベクトル束ともいいます。ベクトル束がイメージするものは多様体の各点にベクトル空間がのっているようなものです。物理では、ベクトル場を考えるときに使います。
 \varphiはベクトル空間の座標(基底)の取り方を意味しています。\varphi^{-1}_U(x):\mathbb{R}^r\to E_xは同型写像であるので、\mathbb{R}^rの自然な基底\{\mathrm{e}_i\}に対し、\{\varphi^{-1}_U(x)(\mathrm{e}_i)\}は独立なr個のベクトルの組で、E_xの基底となります。
 また、\varphiは局所自明化とも呼ばれ、Eの局所的な座標表示を与えます。つまり、\pi^{-1}(U)\cong U\times \mathbb{R}^rであるので、p\in\pi^{-1}(U)\subset Ep=(x,v)ともかけます。ここで、x=\pi(p)\in M,v\in\mathbb{R}^rで、vE_xの基底を\{\varphi^{-1}_U(x)(\mathrm{e}_i)\}としたときの成分になります。この局所性は大切で、大域的な、つまりE全体の基底が存在するとは限りません。
 S^1上のランク1のベクトル束を見てみましょう。
f:id:C-and-A:20211119212258p:plain
これはメビウスの帯と円筒の2つあります。メビウスの帯はベクトルを一周させると反転してしまうので、大域的な基底は存在しません。対して、円筒は大域的な基底が存在します。また、円筒の捻じれの無いベクトル束S^1\times \mathbb{R}のように、底空間とベクトル空間の直積でかけるような束を直積束とも言います。
 物理的にはS^1上に周期境界条件または、反周期境界条件をいれた系とみることが出来ます。これには、実際にスピンが関わってくるのですが、できればこの解説もそのうちします。

 ベクトル場を見るために切断を導入しましょう。

定義 切断(section)
 ベクトル束Eの切断とは写像\overline{\sigma }:M\to Eであって
\displaystyle\pi\circ \overline{\sigma }(x)=x,\ x\in M
を満たすものである。切断の集合を\Gamma(E)とかく。また、開集合U\subset Mに対して
\displaystyle\pi\circ \overline{\sigma }(x)=x,\ x\in U
を満たす写像\overline{\sigma }:U\to \pi^{-1}(U)を局所切断といい、局所切断の集合を\Gamma(E;U)と表す。

切断のイメージとしては、下のようなものを考えると良いです。

上の図の通り、切断とは、底空間からファイバーへの写像で、\overline{\sigma }(x)を局所座標表示すると
\displaystyle\overline{\sigma }(x)=(x^1,...,x^n,\sigma^1(x),...,\sigma^r(x)),\ \ \sigma(x)=\begin{pmatrix}
\sigma^{1}( x)\\
\vdots \\
\sigma^{r}( x)
\end{pmatrix}\in \mathbb{R}^r
とかけます。そして、この\sigma(x)が物理で言うベクトル場となります。ベクトル場とはベクトル束の切断と言ってもいいでしょう。
 また、切断は切断同士の和も、切断のスカラー倍もまた、切断になるので\Gamma(E)はベクトル空間になります。
 先ほど、大域的な基底は存在するとは限らないといいましたが、局所的な基底は必ず存在します。実際、e_i:U\to \pi^{-1}(U)e_i(x)=(x,\varphi^{-1}_U(x)(\mathrm{e}_i))と定義すればこれが基底となります。e_iは座標表示すると
\displaystyle e_{i}( x) =\left( x^{1} ,\dotsc ,x^{n} ,0,\dotsc ,1,\dotsc ,0\right)
とかけることから分かると思います。これを用いると\overline{\sigma}\in\Gamma(E)
\displaystyle \overline{\sigma} =\sigma^{i} e_{i}
と局所的にかけます。このため、\Gamma(E;U)\{e_i\}を基底とした、C^\infty(M)係数ベクトル空間とみれます。アインシュタインの縮約を用いて総和記号\Sigmaを省略していることに注意してください。さらに、今後はこのように、幾何学的な量、つまり、座標表示をしない量にオーバーラインをつけ、それを座標表示したものをオーバーラインを外して表します。
 また、\Gamma(E)もベクトル空間になるので、\Gamma(E)の基底は存在しますが、この基底が全てのファイバー上で独立とは限らないという意味で、大域的な基底は存在しないといっています。


 最初の実ベクトル束の定義の「実」をそのまま「複素」に読み替えれば、自然に複素ベクトル束を定義できます。波動関数は複素ベクトル束の切断と考えることもできます。

 重要なベクトル束を2つ紹介しましょう。

定義 (余)接ベクトル((co)tangent bundle)
 Mの局所座標系を(x^1,...,x^n)ととる。また、p\in Mにおいて、ベクトル空間T_pMの基底を(\partial/\partial x^1,...,\partial/\partial x^n)とする。このとき、\overline{X}\in T_pM
\displaystyle \overline{X}=X^\mu\frac{\partial}{\partial x^\mu},\ \ X^1,...,X^n\in \mathbb{R}
とかける。これを用いて、T_pMの座標表示を(x^1(p),...,x^n(p),X^1,...,X^n)とする。T_pMはベクトル空間であり、TM=\cup_{p\in M} T_pMベクトル束となる。これを接ベクトル束という。
 また、余接ベクトル束は、基底を(dx^1,...,dx^n)とするベクトル空間T_p^*Mを張り合わせたベクトル束T^*M=\cup_{p\in M} T_p^*Mである。

 T^*Mアスタリスク、そして、名前の「co-」はTMの双対ベクトル束であることを意味しています。つまり、T_pMT_p^*Mは双対ベクトル空間になっていて、内積

\displaystyle\langle \overline{Y},\overline{X}\rangle =\left\langle Y_{\mu}dx^{\mu}  ,X^{\nu}\frac{\partial }{\partial x^{\nu}}\right\rangle =Y_{\mu} X^{\mu} ,\ \ Y\in T_{p}^{*} M,\ X\in T_{p} M
と与えられています。
 相対性理論を学んだことがある人は、添え字のつけ方にピンときたかもしれませんが、まさにTMの切断が反変ベクトル場でT^*Mの切断が共変ベクトル場になります。そう思うと、内積が自然に思えるのではないでしょうか。

 \overline{X}\in\Gamma(TM)が反変ベクトル場であることを確かめるには、座標変換に対するXの変換性を調べる必要があります。そこで、ベクトル束の変換関数を定義します。

定義 変換関数(transition functions)
M開被覆\{U_\alpha\}とする。\forall x\in U_\alpha\cap U_\betaに対し
\displaystyle\varphi_\alpha(x):E_x\to\mathbb{R}^r,\ \ \varphi_\beta(x):E_x\to\mathbb{R}^r
は同型写像であり、写像
\displaystyle s_{\alpha \beta } :U_{\alpha } \cap U_{\beta }\rightarrow \mathrm{GL}( n,\mathbb{R})
\displaystyle s_{\alpha \beta }( x) :=\varphi _{\beta }( x) \circ \varphi _{\alpha }^{-1}( x)
が定義できる。この\left\{s_{ \alpha \beta }\right\}を変換関数という。
 定義からx\in U_{\alpha } \cap U_{\beta } \cap U_{\gamma }について、コサイクル条件
\displaystyle
s_{\alpha  \alpha}( x) =I,\ \ \left( s_{ \alpha  \beta }( x)\right)^{-1} =s_{ \beta\alpha }( x),
\displaystyle
s_{\alpha \beta }( x) s_{\beta  \gamma }( x) =s_{ \alpha \gamma }( x)
が成り立つことが分かります。

 TMを使って、変換関数の振る舞いを見ていきましょう。
 p\in U\cap U^\primeとして、変換関数をs(p):=\varphi _{U^\prime }( p) \circ \varphi _{U^\prime }^{-1}( p)とします。\overline{X}\in\Gamma( TM)に対し

\displaystyle
\varphi _{U}(p)(\overline{X}) =X:=\begin{pmatrix}
X^{1}\\
\vdots \\
X^{n}
\end{pmatrix}\in \mathbb{R}^n
となります。\overline{X}\in T_pM幾何学的な量、つまり、基底に依らない表示になるので
\displaystyle \overline{X}=X^{\mu }\frac{\partial }{\partial x^{\mu }} =X ^{\prime\nu }\frac{\partial }{\partial x ^{\prime\nu }}
が成り立ちます。変換関数は
\displaystyle X^\prime =\varphi _{U^\prime }(p)\left( X^{\prime \nu }\frac{\partial }{\partial x ^{\prime \nu }}\right) =s( p) \circ \varphi _{U}( p)\left( X^{\mu }\frac{\partial }{\partial x^{\mu }}\right) =s( p) X
を満たしていることが分かります。

 ここで、チェーンルールから基底が

\displaystyle
\frac{\partial }{\partial x^{\mu}} =\frac{\partial }{\partial x^{\prime\nu}}\frac{\partial x^{\prime\nu}}{\partial x^{\mu}}
と変換されるので、見比べると
\displaystyle
X^{\prime\nu} =\frac{\partial x^{\prime\nu}}{\partial x^{\mu}} X^{\mu}
が成り立っていることが分かります。そして、まさにこれは、反変ベクトルの変換性を表していることが分かります。また、TMの変換関数はヤコビアン\partial x^{\prime\nu}/\partial x^{\mu}となることが分かります。つまり、数学的に、多様体のチャートが座標の取り方に対応していて、チャートを乗り換えることが座標変換になる、ということが分かります。

 同じことが、T^*Mについても出来て、\overline{Y}\in\Gamma(T^*M)

\displaystyle
Y_{\nu}^{\prime} =\frac{\partial x^{\mu}}{\partial x^{\prime\nu}} Y_{\mu}
という、共変的な変換を受けることが示せます。

 共変ベクトル、反変ベクトルとくれば、テンソルを作りたくなります。ということで、ベクトル束からベクトル束を作る操作を紹介します。(テンソルも線形性が成り立つという意味ではベクトルです)

 ベクトル空間V,Wが与えられたとき、直和V\oplus WテンソルV\otimes W、双対V^*外積\wedge^k V、対称積\operatorname{Sym}^{k} Vなどが定義できます。また、W\subset Vならば、商V/Wも定義できます。ここでは各操作について詳しく述べることはしません。
 対応して、底空間が同じベクトル束\pi_E:E\to M,\pi_F:F\to Mについて、各ファイバーごとに上の操作をすることによって、直和E\oplus FテンソルE\otimes F、双対E^*外積\wedge^k E、対称積\operatorname{Sym}^{k} Eが定義できます。
 特に、接ベクトル束r回、余接ベクトル束sテンソルした、テンソル

\displaystyle
{T^{r}}_{s} M=\overbrace{TM\otimes \cdots \otimes TM}^{r} \otimes \overbrace{T^{*} M\otimes \cdots \otimes T^{*} M}^{s}
の切断
\displaystyle
\overline{T}=T^{\mu _{1} \cdots \mu _{r}}{}_{\nu _{1} \cdots \nu _{s}}\frac{\partial }{\partial x^{\mu _{1}}} \otimes \cdots \otimes \frac{\partial }{\partial x^{\mu _{r}}} \otimes dx^{\nu _{1}} \otimes \cdots \otimes dx^{\nu _{s}}
テンソル場であり
\displaystyle
{T^{\prime\mu _{1} \cdots \mu _{r}}}_{\nu _{1} \cdots \nu _{s}} =\frac{\partial x^{\prime\mu _{1}}}{\partial x^{\rho _{1}}} \cdots \frac{\partial x^{\prime\mu _{r}}}{\partial x^{\rho _{r}}}\frac{\partial x^{\sigma _{1}}}{\partial x^{\prime\nu _{1}}} \cdots \frac{\partial x^{\sigma _{s}}}{\partial x^{\prime\nu _{s}}} {T^{\rho _{1} \cdots \rho _{r}}}_{\sigma _{1} \cdots \sigma _{s}}
のように変換をうけます。また計量g=g_{\mu\nu}dx^\mu\otimes dx^\nuT^*M\otimes T^*Mの切断であって、更にk形式は、\wedge^k T^*Mの切断と見れます。

 後々で使うので、\wedge^k M=\wedge^k T^*M,  \Omega^k(M)=\Gamma(\wedge^k M)と表記を定めておきます。k=0については、\Omega^0(M)=C^\infty(M)とします。
 最後に、たくさん出てくる添え字を略記する方法を定めておきたいと思います。\overline{X}\in\Gamma(E)を、局所的な基底\{e_i\}を使って、\overline{X}=X^ie_iと展開します。ここで

\displaystyle e=( e_{1} ,\dotsc ,e_{r}) ,\ X=\begin{pmatrix}
X^{1}\\
\vdots \\
X^{r}
\end{pmatrix}
と、基底の組を横ベクトル、成分を縦ベクトルであらわすことで、
\displaystyle \overline{X}=X^ie_i=eX
と表記します。また、テンソルE\otimes Fについては、自然な同型E\otimes F\cong F\otimes Eが存在するので、基底について、ef:=e\otimes f=f\otimes e=feと可換であるように見なし、記号\otimesを省略します。例えば、テンソル\overline{T}\in\Gamma({T^r}_sM)は局所的に
\displaystyle \overline{T} =\left(\frac{\partial }{\partial x}\right)^{r}( dx)^{s} T
とかきます。一応、重要な式については添え字をつけた表示も載せるようにします。

 今回はここまでにして、次回からは共変微分と接続についての話になります。