物理よりな微分幾何③ 共変外微分と曲率
前回の共変微分に続いて、共変外微分を解説します。共変微分は、から、への微分写像として、定義されており、共変外微分は、それを自然にからへの微分写像として拡張したものです。なので、記号は共変微分と同じを使います。
共変外微分は微分であるので、線形性を要請しますが、これは定義のが通常の共変微分でが外微分であることから分かります。特にのとき、共変微分の定義と一致します。また、外微分の類似式として、に対し、の外微分はと計算できます。外微分ではと、二回合成で消える性質があったので、共変外微分ではこの性質がどのように引き継がれているかを見てみましょう。に対してを作用させるととなるため、に対してのみ、の作用を考えればいいことが分かります。
を使って展開してみるととなります。ここで注目すべきことは、最後の式にの微分項を含んでいない、いう点です。つまり、は最早、微分演算子ではなくが行列値であったので、は行列値の2形式となります。行列の添え字を復活させるととなります。このを曲率といいます。ここで、はともかかれ、切断がからへの線形写像、基底をあたえれば行列になるものです。
曲率を基底をつかって展開すればとかけ、がなりたつことが分かります。また、に対しを満たすので、に対しがなりたちます。
をと係数をおけばよりが成り立ちます。また、を用いて
]
とかかれることもあります。接続の定義の際に、虚数だけ違うので完全に一致はしませんが、ヤン・ミルズのゲージ理論での曲率を再現しています。さらに、の成分をと展開した係数はのとき、リーマンの曲率テンソルになります。続いて、曲率の共変外微分を考えてみましょう。に対し、であり、は
を満たすように定義されます。を使うととが成り立ちます。つまり、見比べるととなります。これをビアンキの恒等式といいます。
ビアンキ恒等式はでは、実計算には余りにも不向きなので、より有用な表示を考えています。に対しとかくと、であり、は
とからとも表現できます。またと展開するとより]
ともかけます。ただし、ビアンキ恒等式はではないことに注意が必要です。は添え字の入れ換えに対し反対称ではないので、の係数が0になるように展開するにはと展開する必要があります。ここではと定義されます。このように定義したときはとかけます。また、は2形式の係数であり、がなりたつので、成分についての正しいビアンキ恒等式はとなります。
リーマンの曲率テンソルに対してはとかけますが、にはビアンキ恒等式と呼ばれる式がもう一つあり、それに対して今回導いた式はビアンキの第2恒等式と呼ばれます。
また、ゲージ理論では、マクスウェル方程式のうち二つがビアンキ恒等式として扱うことが出来ます。残りの2式は恒等的に成り立つ式ではなく、ラグラジアンが指定する運動方程式となっています。このシリーズの目標はゲージ理論なので、そのうち、この話はしていきたいと思っています。
最後に、曲率の変換性について考えます。から、に座標変換したとき、基底がと変換されたとします。このとき
が成り立ち、と、よりつまりのように変換されることが分かります。の変換性はとその逆行列で挟まれたものであるので、の行列式とトレースはのように、基底のとりかたに依らない量になります。これによって、後々、特性類というものを上手く考えることができるようになってきます。今回はここまでにして、次回は具体的なベクトル束に対して、これまで出てきた概念を計算してみたいと思います。