行列の微分公式集
まず、行列の微分は、成分ごとに微分することで得られます。つまり
行列
の微分は
行列として
行列の積の微分は
成分に注目して
しかし、行列の累乗を考え始めると、事情は変わります。まずは2乗は積の公式から
更に高次の累乗については
次は、行列の指数関数...と思ったのですが、やたら重いので後回しにして、先に行列特有の演算、つまり、トレースと行列式の微分を考えましょう。
トレースについては簡単で
行列式に対してはあまり自明なものではなくなってきます。この行列式の微分は多くは余因子展開を使うようですが、物理屋としては素直に出てくる発想ではないので、別証明を与えます。物理でよく使う公式
最後に、行列の指数関数
リー群やゲージ理論を勉強しているとという量がよく出てくるので、これを計算して終わります。
はリー群の元として
と表します。このとき、
であるので
物理よりな微分幾何③ 共変外微分と曲率
前回の共変微分に続いて、共変外微分を解説します。共変微分は、
から、
への微分写像として、定義されており、共変外微分は、それを自然に
から
への微分写像として拡張したものです。なので、記号は共変微分と同じ
を使います。
外微分では
曲率
続いて、曲率の共変外微分を考えてみましょう。
に対し、
であり、
は
ビアンキ恒等式はでは、実計算には余りにも不向きなので、より有用な表示を考えています。
に対し
とかくと、
であり、
は
リーマンの曲率テンソルに対しては
また、
最後に、曲率の変換性について考えます。から、
に座標変換したとき、基底が
と変換されたとします。このとき
今回はここまでにして、次回は具体的なベクトル束に対して、これまで出てきた概念を計算してみたいと思います。
物理よりな微分幾何② 接続と共変微分
前回は、ベクトルの定義をして、ベクトル場やテンソル場などは、ベクトル束の切断である、との話をしました。続いては、共変微分についての数学的表現を話していきます。
最初に共変微分の定義をのべて、そこから、物理での共変微分とそれが一致することをみていきます。
まず、について説明します。もう少し一般化して
について考えましょう。この切断
は
また、線形性とライプニッツ則は微分であるためには満たさなければいけません。一般に数学では、線形性とライプニッツ則みたす写像を微分といいます。
に対し、
は
に値をとる1次微分形式なので
はライプニッツ則から
接続を用いると共変微分は
共変微分と接続の変換性について見ていきましょう。と変換することを考えます。まず、共変微分について
続いて、の共変微分から、双対束
の共変微分を導入します。
と、
に対し、
の共変微分
を
また、
最後に、一般相対性理論の共変微分の式を導いておきます。相対論では、つまり、反変ベクトル場の共変微分をクリストッフェル記号を用いて
今回はここまでにして、次回は共変外微分と曲率を解説します。
物理よりな微分幾何① ベクトル束の定義
ベクトル束の勉強をしていて、分かってきたとこも多くなったので、こちらにまとめていこう!
というモチベーションでやっていきます。あと、できるだけ、物理側面についても触れようと思います。むしろ、物理向けにかきたいので、ちょくちょく、数学書の記法とは異なる記法になっているかもしれないです。
では、まずは定義から
底空間と全射
が明らかなときは
のことをベクトル束ともいいます。ベクトル束がイメージするものは多様体の各点にベクトル空間がのっているようなものです。物理では、ベクトル場を考えるときに使います。
はベクトル空間の座標(基底)の取り方を意味しています。
は同型写像であるので、
の自然な基底
に対し、
は独立な
個のベクトルの組で、
の基底となります。
また、は局所自明化とも呼ばれ、
の局所的な座標表示を与えます。つまり、
であるので、
は
ともかけます。ここで、
で、
は
の基底を
としたときの成分になります。この局所性は大切で、大域的な、つまり
全体の基底が存在するとは限りません。
上のランク1のベクトル束を見てみましょう。

これはメビウスの帯と円筒の2つあります。メビウスの帯はベクトルを一周させると反転してしまうので、大域的な基底は存在しません。対して、円筒は大域的な基底が存在します。また、円筒の捻じれの無いベクトル束のように、底空間とベクトル空間の直積でかけるような束を直積束とも言います。
物理的には上に周期境界条件または、反周期境界条件をいれた系とみることが出来ます。これには、実際にスピンが関わってくるのですが、できればこの解説もそのうちします。
ベクトル場を見るために切断を導入しましょう。
切断のイメージとしては、下のようなものを考えると良いです。
上の図の通り、切断とは、底空間からファイバーへの写像で、また、切断は切断同士の和も、切断のスカラー倍もまた、切断になるので
先ほど、大域的な基底は存在するとは限らないといいましたが、局所的な基底は必ず存在します。実際、
また、
最初の実ベクトル束の定義の「実」をそのまま「複素」に読み替えれば、自然に複素ベクトル束を定義できます。波動関数は複素ベクトル束の切断と考えることもできます。
重要なベクトル束を2つ紹介しましょう。
また、余接ベクトル束は、基底を
のアスタリスク、そして、名前の「co-」は
の双対ベクトル束であることを意味しています。つまり、
と
は双対ベクトル空間になっていて、内積が
相対性理論を学んだことがある人は、添え字のつけ方にピンときたかもしれませんが、まさに
が反変ベクトル場であることを確かめるには、座標変換に対する
の変換性を調べる必要があります。そこで、ベクトル束の変換関数を定義します。
を使って、変換関数の振る舞いを見ていきましょう。
として、変換関数を
とします。
に対し
ここで、チェーンルールから基底が
同じことが、についても出来て、
は
共変ベクトル、反変ベクトルとくれば、テンソルを作りたくなります。ということで、ベクトル束からベクトル束を作る操作を紹介します。(テンソルも線形性が成り立つという意味ではベクトルです)
ベクトル空間が与えられたとき、直和
、テンソル積
、双対
、外積
、対称積
などが定義できます。また、
ならば、商
も定義できます。ここでは各操作について詳しく述べることはしません。
対応して、底空間が同じベクトル束について、各ファイバーごとに上の操作をすることによって、直和
、テンソル積
、双対
、外積
、対称積
が定義できます。
特に、接ベクトル束を回、余接ベクトル束を
回テンソルした、テンソル束
後々で使うので、と表記を定めておきます。
については、
とします。
最後に、たくさん出てくる添え字を略記する方法を定めておきたいと思います。を、局所的な基底
を使って、
と展開します。ここで
今回はここまでにして、次回からは共変微分と接続についての話になります。
n人でじゃんけんするときの回数(改良編)
以前こんな問題について書いた。
c-and-a.hatenablog.com
問題設定
人でじゃんけんを行い、あいこであればもう一度、勝ちが出れば、勝った人たちでまたじゃんけんを行う。これを最後に一人出るまで繰り返す。優勝者がでるまでに行ったじゃんけんの回数の期待値を
とする。
を求めよ。なお、
としておく。
簡単に言えば、みんなでじゃんけんをやったとき、優勝者を決めるのには何回必要かを考えた。これはなかなかに骨の折れる問題でとても解くのが難しく、前回の解答はとても満足のできる形にならなかった。
今回、もっとすっきりした解が求まったのでそれを紹介しよう。
前回と共通するところまでは飛ばそう。
回数の期待値の漸化式は
まず、母関数を考えるのは同じで
前回と同じようなトリックを使うと
これを母関数に代入し整理していく
\begin{align*}
F( x) & =\sum ^{\infty }_{n=0}\frac{E_{n}}{n!} x^{n} =\sum ^{\infty }_{n=2}\frac{E_{n}}{n!} x^{n}\\
& =\sum ^{\infty }_{n=2}\frac{1}{n!}\frac{1}{2^{n}}\left\{3^{n-1} +E_{n} +\sum ^{n}_{k=0}\begin{pmatrix}
n\\
k
\end{pmatrix} E_{k}\right\} x^{n}\\
& =\frac{1}{3}\sum ^{\infty }_{n=2}\frac{1}{n!}\left(\frac{3}{2} x\right)^{n} +\sum ^{\infty }_{n=2}\frac{E_{n}}{n!}\left(\frac{x}{2}\right)^{n} +\sum ^{\infty }_{n=2}\frac{1}{n!}\left(\frac{x}{2}\right)^{n}\sum ^{n}_{k=0}\begin{pmatrix}
n\\
k
\end{pmatrix} E_{k}\\
& =\frac{1}{3}\left( e^{3x/2} -1-\frac{3x}{2}\right) +F( x/2) +\sum ^{\infty }_{n=0}\frac{1}{n!}\left(\frac{x}{2}\right)^{n}\sum ^{n}_{k=0}\begin{pmatrix}
n\\
k
\end{pmatrix} E_{k}
\end{align*}
式変形ではを使って、和の開始をずらしたりしているので注意してほしい。
3項目は
\begin{align*}
\sum ^{\infty }_{n=0}\frac{1}{n!}\left(\frac{x}{2}\right)^{n}\sum ^{n}_{k=0}\begin{pmatrix}
n\\
k
\end{pmatrix} E_{k} & =\sum ^{\infty }_{n=0}\sum ^{n}_{k=0}\frac{1}{( n-k) !}\left(\frac{x}{2}\right)^{n-k} \cdot \frac{E_{k}}{k!}\left(\frac{x}{2}\right)^{k}\\
& =\sum ^{\infty }_{n=0}\sum ^{\infty }_{k=0}\frac{1}{n!}\left(\frac{x}{2}\right)^{n} \cdot \frac{E_{k}}{k!}\left(\frac{x}{2}\right)^{k}\\
& =e^{x/2} F\left(\frac{x}{2}\right)
\end{align*}
と簡約できるので、最終的に
先に解答の方針を示そう。と上の式の右辺の3項がそれぞれ
を得る。
\begin{align*}
F( x) & =\left( 1-e^{x}\right) f( x)\\
& =-\sum ^{\infty }_{n=1}\frac{1}{n!} x^{n}\sum ^{\infty }_{m=1}\frac{a_{m}}{m!} x^{m}\\
& =-\sum ^{\infty }_{n=1}\sum ^{\infty }_{m=1}\frac{1}{( n+m) !}\begin{pmatrix}
n+m\\
m
\end{pmatrix} a_{m} x^{n+m}\\
& =-\sum ^{\infty }_{n=2}\frac{x^{n}}{n!}\sum ^{n-1}_{m=1}\begin{pmatrix}
n\\
m
\end{pmatrix} a_{m}
\end{align*}
であるので
あとはを求めていくのだが、まずは項ごとに考えていく。まずは
小さい値について計算すると
latex : table の caption ごと左寄せする方法
latex で文章を書いているとき、表を(cell ごとのでなく、全体を)左寄せに書きたいときがある。しかし
\documentclass{article} \begin{document} Hogehogehogehoge \begin{table}[h] \caption{Hoge} \begin{tabular}{|c|c|c|c|} \hline A & B & C & D \\ \hline E & F & G & H \\ \hline \end{tabular} \end{table} Hogehoge \end{document}
このようにやると、出力が下のようになり、caption が取り残される。table 環境を flushleft 環境で囲っても同じ結果になる。

これは threeparttable パッケージを使えば解決できた。下のように tabular 環境を threeparttable 環境で囲む。
\documentclass{article} \usepackage{threeparttable} \begin{document} Hogehogehogehoge \begin{table}[h] \begin{threeparttable} \caption{Hoge} \begin{tabular}{|c|c|c|c|} \hline A & B & C & D \\ \hline E & F & G & H \\ \hline \end{tabular} \end{threeparttable} \end{table} Hogehoge \end{document}
出力は下のようになり、caption も引っ張ってこれる。

threeparttable にはほかにも機能がありそうなので、色々試してみたい。
とある関数方程式について
以前じゃんけんの期待値について記事を書いたとき
という関数方程式をといた。しかし、そのときの方法では の近傍で発散してしまい、発散級数の総和法を用いて有限値に落とし込むということをしなければならない。今回、別の解法を見つけたので、それを紹介する。(ただ、これも実際計算しようとすると簡単にはいかない)
問題
を既知の
の周りで
級である関数とする。
の周りで
級である関数
が
の近傍で
を満たすとき、 を求めよ。
解法
以降、 の近傍に限って話を進める。つまり、大域的な解については考慮しない。
は
級なので
と展開できる。この係数 を求めることが本稿の目標となる。
低次の係数から見ていこう。
式を微分することにより
これに を代入すれば
を得る。
もう一度微分すれば
より
となる。
以下同様に 階微分を施し、
を代入すれば、左辺には
、右辺には
が現れ、
は既に求まっているので、
を求めることが出来る。
あとは の高階微分と無限個の連立方程式をとけば、
が求まる、のだが、これからが厄介。
合成関数の高階微分については、Faà di Bruno の公式というものがあり、それによれば の
階微分は
とかける。なお、 は
を満たす非負整数の組 についての総和を表す。また
とする。
これを に適応すると、
であるので、sum の中が消えないためには
で
で
つまり
をみたす。よって
となることが分かる。 が偶数ならば
から、奇数ならば
からの和になる。
見通しをよくするため
と書こう。なお、 は二項係数である。このとき、連立方程式は
と表せる。無限次元ベクトルと無限次元行列
を用いれば
つまり、 の逆行列
が分かれば
と解ける。
この について、詳しく見ていこう。
の定義から
は下三角行列である。これはとてもうれしい。なぜなら、無限次元行列の逆行列という見るからにエグいものが、有限次元に落とすことが出来る。つまり、
の左上の
行列(以降、小
次行列と呼ぼう)は
の
次行列の逆行列になる。
とかけることからも明らかであろう(もっと一般に、 の対角線上のどの正方行列に対しても、対応する
の正方行列は逆行列になる)。そして、下三角行列の逆行列は下三角行列になるので、
が有限和になる。特に
を求めるのに
以降の情報は不要である。また
という条件から non-zero の項だけ書けば
と縦横どちらも行列の non-zero でない成分は高々有限個。
基本行列
を に左から
のようにかけよう。左に三点リーダがあり気持ち悪い気もするが
のように解釈してほしい。 と
の間には
を挟む。収束先が存在するかはあとで述べよう。
に
をかけると、
の(本当は
の、だが分かるだろう)
成分が
になる。更に
をかけると、
成分が
になる。更に
をかけると、
成分が
になる。といったように、小
次行列から順に単位行列にしていく。
までかければ、
の小
次行列が単位行列になることもわかる。以降の
などは全て小
次行列が単位行列であり、これらはまた下三角行列であるので、
の小
次行列が単位行列から崩れることはない。これより
となる。
さて、収束先 が存在することを示そう。
の行列要素を とし
が存在すること(つまり、行列の2乗ノルムに対する収束)を言えばよい。
まず、 らは下三角行列であるので、
も下三角行列。よって
、つまり、先にも述べたが、
は下三角行列。また、
以降の基本行列は全て小
行列が単位行列なので、
以降の小
行列は変化しない。そして、
の成分は有限和なので収束し
となる。
しかし、証明が出来たわけではないのだが、 の下三角成分に
は存在しないだろう。つまり、残念ながら、
は線形写像ではない。どういうことかというと、例えば、
のとき、
となり、
はベクトル空間の元ではなくなる(無限次元ベクトル空間の元は有限個の基底の線形和で与えられる)。
このことは、 が多項式であっても、
が多項式になるとは限らないということを意味する。逆に、
は線形写像になるので、
が多項式ならば
も多項式である。
の一般項を明示的に表すのは困難なので(出来なくはないだろうが、じゃんけんの一般項みたいにSigma, Sigma, Sigma になるので)、これで逆行列は求まったということにしてほしい。実際、行列要素はもとめることが出来るのだから問題ないだろう。因みに
となる。
実際 を求めるときは
以降の情報は要らない、つまり、
の小
行列が確定していればいいので、
でよろしい。 以降は正しくならないので
と書いた。
のように書くこともできるだろう。この表示を使えば
これをもって関数方程式はとけたと言い張ろうと思う。
