とある関数方程式について
以前じゃんけんの期待値について記事を書いたとき
という関数方程式をといた。しかし、そのときの方法では の近傍で発散してしまい、発散級数の総和法を用いて有限値に落とし込むということをしなければならない。今回、別の解法を見つけたので、それを紹介する。(ただ、これも実際計算しようとすると簡単にはいかない)
問題
を既知の の周りで 級である関数とする。 の周りで 級である関数 が の近傍で
を満たすとき、 を求めよ。
解法
以降、 の近傍に限って話を進める。つまり、大域的な解については考慮しない。
は 級なので
と展開できる。この係数 を求めることが本稿の目標となる。
低次の係数から見ていこう。
式を微分することにより
これに を代入すれば
を得る。
もう一度微分すれば
より
となる。
以下同様に 階微分を施し、 を代入すれば、左辺には 、右辺には が現れ、 は既に求まっているので、 を求めることが出来る。
あとは の高階微分と無限個の連立方程式をとけば、 が求まる、のだが、これからが厄介。
合成関数の高階微分については、Faà di Bruno の公式というものがあり、それによれば の 階微分は
とかける。なお、 は
を満たす非負整数の組 についての総和を表す。また とする。
これを に適応すると、 であるので、sum の中が消えないためには で
で
つまり
をみたす。よって
となることが分かる。 が偶数ならば から、奇数ならば からの和になる。
見通しをよくするため
と書こう。なお、 は二項係数である。このとき、連立方程式は
と表せる。無限次元ベクトルと無限次元行列
を用いれば
つまり、 の逆行列 が分かれば
と解ける。
この について、詳しく見ていこう。 の定義から は下三角行列である。これはとてもうれしい。なぜなら、無限次元行列の逆行列という見るからにエグいものが、有限次元に落とすことが出来る。つまり、 の左上の 行列(以降、小 次行列と呼ぼう)は の 次行列の逆行列になる。
とかけることからも明らかであろう(もっと一般に、 の対角線上のどの正方行列に対しても、対応する の正方行列は逆行列になる)。そして、下三角行列の逆行列は下三角行列になるので、 が有限和になる。特に を求めるのに 以降の情報は不要である。また という条件から non-zero の項だけ書けば
と縦横どちらも行列の non-zero でない成分は高々有限個。
基本行列
を に左から
のようにかけよう。左に三点リーダがあり気持ち悪い気もするが
のように解釈してほしい。 と の間には を挟む。収束先が存在するかはあとで述べよう。
に をかけると、 の(本当は の、だが分かるだろう) 成分が になる。更に をかけると、 成分が になる。更に をかけると、 成分が になる。といったように、小 次行列から順に単位行列にしていく。 までかければ、 の小 次行列が単位行列になることもわかる。以降の などは全て小 次行列が単位行列であり、これらはまた下三角行列であるので、 の小 次行列が単位行列から崩れることはない。これより
となる。
さて、収束先 が存在することを示そう。
の行列要素を とし
が存在すること(つまり、行列の2乗ノルムに対する収束)を言えばよい。
まず、 らは下三角行列であるので、 も下三角行列。よって 、つまり、先にも述べたが、 は下三角行列。また、 以降の基本行列は全て小 行列が単位行列なので、 以降の小 行列は変化しない。そして、 の成分は有限和なので収束し となる。
しかし、証明が出来たわけではないのだが、 の下三角成分に は存在しないだろう。つまり、残念ながら、 は線形写像ではない。どういうことかというと、例えば、 のとき、 となり、 はベクトル空間の元ではなくなる(無限次元ベクトル空間の元は有限個の基底の線形和で与えられる)。
このことは、 が多項式であっても、 が多項式になるとは限らないということを意味する。逆に、 は線形写像になるので、 が多項式ならば も多項式である。
の一般項を明示的に表すのは困難なので(出来なくはないだろうが、じゃんけんの一般項みたいにSigma, Sigma, Sigma になるので)、これで逆行列は求まったということにしてほしい。実際、行列要素はもとめることが出来るのだから問題ないだろう。因みに
となる。
実際 を求めるときは 以降の情報は要らない、つまり、 の小 行列が確定していればいいので、
でよろしい。 以降は正しくならないので と書いた。
のように書くこともできるだろう。この表示を使えば
これをもって関数方程式はとけたと言い張ろうと思う。